2026.10.22 (最終更新日:2026.10.20)
地域課題を解決する『VAC-YMFG Catalyst』とは――大学の先端技術を社会実装する10億円ファンドの挑戦
岡浩平
山口フィナンシャルグループ(以下、YMFG)傘下のYMFGキャピタルが、2026年6月に設立した新ファンド『VAC-YMFG Catalyst 1号』。先行ファンドでの苦闘を経てたどり着いた「課題起点」のアプローチと、出資だけにとどまらない地銀グループならではの伴走支援とは。代表取締役社長の山口亮太氏(写真左、以下 山口代表)とマネージャーの野﨑維摩氏(写真右 以下 野﨑マネージャー)に、地方VCとしての勝算と地域エコシステムへの覚悟を聞きました。

地域経済を動かす「触媒」の役割
「VAC-YMFG Catalyst 1号投資事業有限責任組合(以下、VAC-YMFG Catalyst)」は、YMFGキャピタルとVISION ARC CAPITAL有限責任事業組合が共同で無限責任組合員(GP)を務めています。有限責任組合員(LP)には、YMFG傘下の山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行に加え、シードステージに特化した国内有数のVCであるインキュベイトファンド(インキュベイトファンドLP3号投資事業有限責任組合)が参画しました。
近年、大学の研究現場でも論文発表にとどまらず、研究成果を事業化・社会実装へつなげる動きが活発化しています。国の支援制度や大学側の意識も実用化重視へシフトする中、ファンド名に掲げた「Catalyst(触媒)」の役割について、山口代表は次のように語ります。
「いま、大学側でも研究をビジネスとして社会に届けていこうという意識が急速に高まっています。ただ、どれほど優れた技術の種があっても、地域企業が抱えるリアルな事業課題と結びつかなければ、事業として自走することはできません。私たちの役割は、その間に入って化学反応を起こす『触媒』になること。『僕たちって、触媒だよね』という現場の共通認識が、そのままファンド名になりました」

「VAC-YMFG Catalyst」は、山口・広島・福岡を中心とする大学に眠る研究開発成果・技術シーズを活用したディープテック企業を主な投資対象としています。地域発の技術を事業化し、産業創出と雇用拡大へつなげていく方針です。さらに今後は、地域の課題から逆算する「課題起点のアプローチ」にも力を入れていきます。現場で大学や地域企業との対話を担う野﨑マネージャーは、その手応えをこう語ります。
「『VAC-YMFG Catalyst』の設立を契機に、地域企業の方々に現場の課題を伺い、その課題を大学側にお伝えした上で、合致する研究をされている先生をご紹介する取り組みを始めています。大学の研究現場にとっても、地域のリアルな事業課題を具体的に知る機会はこれまで多くありませんでした。課題を起点にして先生方をお引き合わせするアプローチには、非常に大きな手応えを感じています」

従来のスタートアップ支援は「大学から事業化に向けて取り組む研究シーズが持ち込まれるのを待つ」という受け身の形が一般的でしたが、山口代表はこの流れを自ら動かしていきたいと語ります。
「地域金融グループには、日頃の取引を通じて『地域の企業がいま現場で何に困っているのか』『どんな新規事業を求めているのか』という生々しい課題の情報がすでに蓄積されています。だからこそ、待っているだけではなく、地域企業の課題をもとに大学の研究室名簿をめくって『この課題に応えられる技術を先生がお持ちですよね。ぜひ起業して社会へ届けましょう』と直接声をかけにいきたい。起業の最初の一歩から僕たちが伴走して支援する――そんな支援の形を、地域の現場でしっかりと形にしていきます」
先行ファンドの壁から生まれた「伴走」の具体策
今回のファンド設計には、YMFGキャピタルが2020年から運用してきた先行の大学発スタートアップ支援ファンド『Fun Fun Drive(総額3億円)』での実務経験と、そこで直面した地方特有の苦闘が色濃く反映されています。山口代表は当時の経緯をこう振り返ります。
「最初のファンドでは、幅広い分野で起業家を育てようと試みましたが、都市部に比べて起業を目指す人材の絶対数が少なく、投資先を見出すこと自体が難しいという課題がありました。その一方で、大学の研究者や先生方へ支援を行っていく中で、手応えも感じていたんです。技術の支援というのは、地域にとって大きな可能性があるんじゃないかと。今回のファンドで大学発の技術を中心にしたのは、そうした現場での実感があったからです」

先行ファンドでの試行錯誤から生まれたこの手応えが、今回の新ファンドの骨格へとつながっていきました。創業後の資金調達、販路開拓、専門人材の確保など、都市部との環境差を埋めるには、資金を出すだけではない継続的な実務支援が欠かせません。この経験から、地域の現場に深く入り込むハンズオン型の支援体制が固まっていきました。
地域金融グループならではの「出資にとどまらない総合支援」のアプローチ
地銀グループならではの強みが、出資にとどまらない、成長フェーズに合わせた多角的な伴走支援です。研究室から生まれたばかりの初期フェーズは、キャッシュフローが見込めないため一般的な融資を受けにくいのが実情です。そこでまずは「VAC-YMFG Catalyst」が株式出資としてリスクマネーを供給し、事業マイルストーンを共に設定しながら伴走します。そして、技術の実証が進み「工場を建てる」「量産化に入る」という段階に到達したタイミングで、今度はYMFG傘下の3銀行が融資で支えるという設計です。
さらに、地銀の取引先ネットワークを活かし、例えば「工場のラインに空きキャパシティがある地元企業」とスタートアップをつないで量産化の道筋を描くなど、製造やサプライチェーンの構築もグループを挙げて支援します。
また、出口戦略についても上場(IPO)だけにこだわりません。地域企業との資本提携やグループ参画を伴うM&Aも、現実的な選択肢として視野に入れています。地域企業の課題起点で生まれたスタートアップだからこそ、地域企業との共創を通じて産業が循環していく道も描いています。

4年間で20〜25社へ投資、社会実装を見据えた長期伴走支援へ
「VAC-YMFG Catalyst」は、今後4年間でプレシード〜シードステージの大学発ディープテック企業を中心に20〜25社への投資を計画しています。支援にあたっては、地銀の支店ネットワークを通じた地域企業へのヒアリングやマッチングと、VISION ARC CAPITALが持つディープテック投資の知見を組み合わせて提供します。
研究開発型のディープテックは、技術の実用化や収益化までに長い時間を要します。そのため、「VAC-YMFG Catalyst」では短期的な成果を追うのではなく、研究開発・事業開発・資金調達の各フェーズに寄り添いながら、技術の社会実装までを見据えた伴走支援を行います。
山口代表は、その狙いについて次のように語ります。
「ディープテックは実用化までどうしても時間がかかります。だからこそ、短期的な回収を急ぐのではなく、その技術が社会にもたらす本質的な価値を見据えて、支援していくことが重要です。大学の研究室と地域企業をつなぐ実務の架け橋として、現場を動かしていきます」

研究現場が生み出す革新的な技術と、地域産業の現場ニーズ。その2つをかけ合わせ、地域経済に持続的な化学反応を起こせるか――。新ファンドが担う「Catalyst(触媒)」としての挑戦は、すでに現場から始まっています。山口フィナンシャルグループが「YMFG中期経営計画(2025年度〜2029年度)」の3つの基本目標の一つとして掲げる『同舟共命(同じ舟に乗り、運命を共にする)型ビジネスモデル』の思想が、このファンドの根底にも流れています。
この記事を書いた人
岡浩平
Go All Out 編集部。クリエイティブ制作から取材まで幅広く対応しています。
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