GO ALL OUTのインタビュー企画「未来を創る起業家たち」。今回は事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」を提供する株式会社ライトライト 代表取締役の齋藤隆太さんにお話をうかがいました。
事業承継のマッチングプラットフォームを運営
ーー事業内容のご説明をお願いします。
事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」を運営しています。
後継者を探している経営者が事業にこめてきた想いやストーリーを記事化しWeb上に公開し、記事を読んだ方からのお問い合わせを通じて、事業の後継者をマッチングする事業を行っています。全国の自治体や商工会、事業承継・引継ぎ支援センターや金融機関などと連携して、地域の事業承継に取り組んでいます。
ーー現在の事業に取り組むきっかけをお聞かせください。
2019年にこの事業の準備を始め、2020年の2月にベータ版としてオープンしました。
事業承継のサービス展開を選んだ理由は、私自身が過去にクラウドファンディングサービスを作って事業譲渡をした経験を持っていたことです。当時すでに2025年問題が非常に大きな社会課題になると感じていたので、以前運営していた、「地域のチャレンジを応援するクラウドファンディングサービス」の延長線上で提供できるサービスに取り組んでみたいと考えていました。また、妻の両親が事業承継についての課題を抱えており、事業承継が身近な問題であったことも理由のひとつです。
ーーベータ版リリースから約3年半経ちました。これまでにどのようなご苦労をされていますか?
事業承継のマッチングに社会的なニーズがあることはわかっていたものの、ソーシャルビジネスに近いことから、本当にマネタイズできるのかという周囲の視線を感じていました。
社名を伏せて事業承継を行う業界の慣習に疑問を感じた
ーー事業承継はこれまでどのように行われていたのでしょうか?
事業承継は、譲渡企業の社名を伏せて行うのが一般的でした。譲渡企業が特定されると、銀行や取引先、従業員の方々に影響が出るというのが主な理由です。
事業承継の交渉では、ノンネームシート(譲渡対象となる会社の社名を伏せて概要を要約したもの)を用い、企業が特定されないようにしながら、主に財務情報を基に進めます。この方法のデメリットとして、特に小規模事業者の場合に、潜在的なポテンシャルが伝わらないことが挙げられます。
ーーオープンネーム(実名)で事業を展開しようと考えたきっかけをお聞かせください。
私の地元である宮崎のメディアで事業の廃業ニュースを目にすることが多かったのですが、多くの場合、ニュースが流れる時点で廃業が既に完了していました。後継者を探していることがもう少し早いタイミングで表に出れば、SNSでの拡散やお店や事業を残したいという地域の支援を得られる可能性があると感じました。
そこで事業承継について調査を進めると、ノンネーム(譲渡対象となる会社の社名を明かさずに概要を要約したもの)という慣習があることが分かったんです。
小規模事業者の事業承継に関しては、実名を開示してもリスクはありません。ただ業界の慣習でノンネームをあてがわれていただけだったので、業界の慣習を変えることで良い方向に向かうのではと考えました。
そうして、オープンネームでの事業承継に取り組んだのですが、前例がないという理由で「逆風」のような状況に直面しました。
ーー具体的にはどういった「逆風」を受けたと感じましたか?
事業を始めるにあたり、関わりのある機関や企業の方々にアイデアを提案してみたところ「オープンネームでの事業承継はあり得ない」という反応が大半でした。金融機関や会計士、税理士の先生に「面白いとは思うけど現実的ではない」と言われることもありました。
しかし、話を聞いているうちに、制度上難しいのではなく単に業界の慣習であることが明らかになりました。業界の常識を変えることで実現可能だと感じて進めてきました。
ルールを少し変えるだけで全く異なるものになりますが、根本は同じであることが、競争力につながると考えています。それに、抵抗されればされるほど、可能性を感じるんですよね。
ちなみに、以前運営していたクラウドファンディングサービスは、「地域×クラウドファンディング」と銘打っていました。競合にはクリエイターを支援するCAMPFIREさん、被災地を支援するREADYFORさんなどがありましたが、地域を応援するというコンセプトを掲げて差別化していました。
ーーマーケットのサイズ感はどのくらいでしょうか?
調査期間の試算では、現時点で2千数百億だと言われています。
ーーこれまでのマッチング件数をお聞かせいただけますか?
これまで370件超掲載し、55件ほど成約しています。
ーー実際の承継の事例をお聞かせください。
最初の事例として、地域のパン屋さんの事業承継を担当しました。後継者がいなくて廃業するタイミングで自治体から連絡があり、relayに掲載し、協力している雑誌「TURNS」にも掲載しました。パン屋さんの近くの出身者が雑誌を立ち読みし、カフェを開く夢を持っていたことから、事業承継がスムーズに進みました。
交渉は約3ヶ月で、最初の問い合わせから1年後には一家4人でUターンして、町に新しい風をもたらしました。私たちの目標はUターンして事業承継する人を増やすことだったので、この事例はとても意義深いものでした。
「オープンネームでの事業承継」に特化しているのが強み
ーー競合にない御社の強みをお聞かせください
当社の最大の強みは、「オープンネームでの事業承継」に特化している点です。これにより、事業承継を透明性高く行うことが可能です。50を超える自治体や商工団体との連携により、幅広いネットワークを形成しており、この広範なアライアンスが当社の大きな強みです。また、ファイナンス(資本政策)を行うにあたっての知見を持つ企業やファンドに株主として入っていることも差別化できるポイントだと思っています。
組織運営の面では、フルリモート体制で働いているので全国各地にメンバーがいることが特徴です。経営陣がクラウドファンディング運営会社の出身であり、ユーザーが作成するコンテンツを審査する大量の案件にも対応できる耐性を持っていることも、私たちの強みの一つです。
ーー事業内容的に各地域にメンバーがいるのは強みになるのでしょうか?
それは確かに強みです。まだ全都道府県にメンバーがいるわけではありませんが、メンバーが存在するエリアでは大きな利点を感じています。将来的には47都道府県全てでメンバーを採用することができればと考えています。
主な課題は「事業承継について地域に相談できる相手がいないこと」
ーー「事業承継」の課題にはどのようなものがありますか?
特に地域における小規模事業者が直面している課題は、事業承継に際して信頼できる相談相手を見つけることの難しさにあります。
事業承継を支援する専門家の数は増加しているものの、当社の主なターゲットである小規模事業者向けの専門的な支援は依然として不足しています。各地の地方銀行も、M&Aの部署はありますが事業承継は対象外です。
事業承継は、プッシュ型ではなくプル型なので、まず事業者さんが動き出さないと、物事が動いていきません。ですが、事業承継に関わる問題を自ら足を運んで話す人は少ないんです。事業承継は突発的な出来事、例えば家族の病気などで急に表面化しますが、地域にプッシュ型でアプローチする人がいないため、誰に相談すればいいか分からず、時間が過ぎるうちに廃業を選ばざるを得なくなってしまいます。
ーー課題の解決に向けてお考えになっていることはありますか?
まず、オープンネームでの事業承継を進めることで、検討範囲を財務状況以外の部分まで広げたいと考えています。そして、地元の小規模事業者が近くで相談できる人や、プッシュ型で声をかけてくれる人がいないという状況を解消するため、自治体や商工団体が常に相談できる環境作りをサポートしています。
自治体や商工会に「relay」を積極的に活用してもらいたい
ーー今後の展望についてお聞かせください。
現在、ほとんどの自治体で事業承継の取り組みが始まっていますが、具体的な方法についてはまだ不明瞭な自治体も多いです。私たちは、そういった自治体や商工団体に「relay」を積極的に活用してもらうための取り組みを進めていきたいと考えています。
また、2023年10月に立ち上げた第三者承継コミュニティ「relays」を活性化させていきたいと思っています。このコミュニティは、親族内承継とは異なる、第三者承継特有の悩みを共有し、経験を次世代に伝える場です。このコミュニティを活用し、事業承継を考える人々が増え、キャリア選択の一つになることを目指しています。
ーー『シード』から『シリーズA』の間の壁を超えたと感じたエピソードはありますか?
私たちはまだ「プレシリーズA」の段階にあり、PMF(製品市場適合)は少し先だと考えています。
しかし、事業承継に関しては自治体からの予算が付き始め、地域の事業者を繋げることで街が変わっていく事例が増えています。これらの事例を話すと、「待っていました」という反応が得られることもあります。
自治体や公的機関からの受注が可能になったこと、経済産業省の補助事業に2年連続で採択され、中小企業庁が実施する実証実験事業に取り組んでいることなど、これらの進展が「シード」から次のフェーズへの移行を感じさせています。また、事業承継・引き継ぎ支援センター新潟、埼玉との正式な連携もこの変化を象徴しています。
株式会社ライトライト
https://light-right.jp/
事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」
https://relay.town/
この記事を書いた人
成重敏夫
北九州市を拠点に活動するライター・Web編集者。 企業取材、スポーツ取材など幅広く対応しています。
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