北九州市のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進策が、地域のスタートアップエコシステムに新たな可能性を開いています。
九州のスタートアップ情報を発信するWebメディア「Go All Out」は、この北九州市のDX推進策に注目しています。この取り組みが地域におけるイノベーションの新たな波を生み出していることがその理由です。
北九州市のDX推進策により、大企業とスタートアップの協業機会が増加し、DX関連分野への投資が活性化しています。これらの変化が、地元スタートアップに新たなビジネスチャンスをもたらすとともに、既存産業の変革や地域課題解決を加速させています。
2024年7月25日に開催された「デジタル化・DXの課題整理ワークショップ」を通じて、地域に根ざしたDX推進の現状と、多様な企業間協力の重要性が浮き彫りになりました。このようなイベントも、「Go All Out」が北九州市のDX推進に注目する理由の一つとなっています。
DXとは
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業がデジタル技術を活用してビジネスモデル、業務プロセス、組織文化を根本的に変革することを指します。単なるIT化ではなく、顧客体験向上、業務効率改善、新規ビジネスモデル創出を目指す包括的な取り組みです。DXは企業の競争力強化と持続可能な成長に不可欠で、技術導入だけでなく組織全体の変革を伴う継続的なプロセスです。
このようなDXの理念に基づいて、北九州市はさまざまな施策を展開しています。その一環として以下のワークショップが開催されました。
「デジタル化・DXの課題整理ワークショップ」レポート
2024年7月25日、北九州市小倉北区の株式会社YEデジタル社内コワーキングスペース・SAKASSO!で「デジタル化・DXの課題整理ワークショップ」が開催され、28名が参加しました。
ワークショップは株式会社kubellによるインプットセミナーから始まりました。kubellの担当者は、中小企業におけるDX推進の重要性と、コミュニケーションツールを活用した業務効率化の実例を紹介しました。
続いて、FAIS(公益財団法人北九州産業学術推進機構)の糸川郁己氏が業界別デジタル革新の現場見学会「北九州DXツアー」で視察した北九州市内企業のDX推進事例を報告。株式会社戸畑ターレット工作所、クラウン製パン株式会社、株式会社西原商事ホールディングス、グランド印刷株式会社、岡野バルブ製造株式会社、株式会社不動産中央情報センターなど、複数の企業が業務効率化や新規事業開発、顧客サービス向上で成果を上げている事例が紹介されました。
この事例報告の後、参加者は自社課題整理ワークショップに取り組みました。まず個別ワークでは、各参加者が自社の現状分析と課題抽出を行いました。ファシリテーターの指導のもと、課題の抽出方法や優先順位づけ、課題の構造化について学びながら、自社の具体的な課題をワークシートに書き出していきました。
続くグループワークでは、4~5人のグループに分かれ、各自が抽出した課題について意見交換を行いました。異なる業種の参加者が一つのグループになることで、多様な視点からの意見が飛び交いました。
ワークショップを通じて、様々な解決策が提案されました。例えば、製造業の生産性向上のための可視化システム導入、中小企業向けの無料ソフトウェアの使い方を共有するプラットフォームの構築、顧客情報管理の改善のためのCRM導入など、具体的かつ実践的なアイデアが多く出されました。
Go All Outの編集部は、このようなワークショップが地域のスタートアップにとって貴重な学びと交流の機会になると評価しています。
北九州市のDX支援策と成果
北九州市は、中小企業の生産性向上と地域産業の持続的発展を目指し、包括的なDX支援策を展開しています。主な取り組みは以下の通りです。
- DX推進プラットフォーム:2020年12月に創設され、2023年3月末時点で408社が参加。
- 切れ目のない支援体制:
- 無料相談・現場派遣:238件の相談受付、744回の専門家派遣
- DX人材育成スクール:4年間で70社・87名の中小企業経営層が受講
- DX推進補助金:3年間で154社を採択 (いずれも2023年3月末時点)
- 北九州市ロボット・DX推進センター:2022年4月に設置し、ワンストップ支援を強化。
- 産学官連携:大学、高専、スタートアップ企業など多様な関係者をつなぐ。
- 首都圏人材の活用:複業・兼業のデジタル人材による支援を実施。
成果として、経済産業省の「DXセレクション」で3年連続受賞を達成。株式会社リョーワ(2022年準グランプリ)、グランド印刷株式会社(2023年準グランプリ)、株式会社西原商事ホールディングス(2024年準グランプリ)などが受賞。また、北九州市独自の「北九州DX大賞」も設立し、地域企業のDX推進を後押ししています。
ワークショップから見えた北九州市DX推進の未来
ファシリテーターの竹山将志氏(9 Capital 代表パートナー)は、ワークショップの成果について以下のように総括しました。
「このワークショップの主な目的は、参加者が自社の課題を自分ごととして捉え、同時に他社の課題にも真摯に向き合うことでした。当初、参加者の間に戸惑いが見られましたが、ワークが進むにつれて皆さんの姿勢が変化していきました。特に印象的だったのは、後半のセッションで参加者が笑顔で、かつ真剣に他者の課題に取り組む姿でした。
最終的な成果は、具体的な解決策を見出すことよりも、参加者が自社の課題を深く理解し、同時に他社の課題にも関心を持つようになったことです。このプロセスこそが、継続的なDX推進の基盤となります。今後は、このワークショップで培われた姿勢を維持し、互いの課題解決に向けて協力し合うことが重要です」
竹山氏は、このような相互理解と協力の姿勢こそが、真のDX推進につながると強調しました。
FAISの角屋氏は、DX推進について次のように述べました。
「DXを推進するにあたっては社会構造そのものを変える必要があると考えています。各企業とも自社の課題解決に尽力していますが、それだけでは十分でないため、多くの企業が困難に直面しているのです。
竹山さんの話にもあったように、自分と縁のある方々の課題をともに考え、解決策を模索することで、北九州市、さらには日本全体がより良くなっていく可能性があります。課題を解決するには、IT企業への丸投げでも、各社の個別の取り組みでも不十分です。今回のワークショップで実施したような協力の枠組みを積極的に作っていくことが重要です」と、参加者に対してDXの共創事業への継続的な参加を呼びかけ、企業間協力の重要性を強調しました。
この発言は、今回のワークショップの意義を端的に表していると言えるでしょう。北九州市のDX推進策は、単なる技術導入にとどまらず、企業間の協力と相互理解を促進する場としても機能しています。竹山氏と角谷氏の見解から、この取り組みが個々の企業の枠を超えた、より広範な社会的影響を目指していることが伺えます。
このワークショップを通じて示された企業間協力の重要性は、北九州市のDX推進の今後の方向性を示唆しています。今後、北九州市は、これらの取り組みをさらに発展させ、地域全体のデジタル化と産業競争力の強化を目指していくことでしょう。企業間の協力と相互理解を基盤とした、地域に根ざしたDX推進の模範として、北九州市の今後の展開が注目されます。
Go All Outの視点から見ると、北九州市のDX推進策は地域のスタートアップエコシステムに大きな可能性をもたらしています。特に注目すべき点は以下の通りです。
・大企業とスタートアップの協業機会の増加
・DX関連分野への投資活性化
・地域に根ざした課題解決アプローチ
・多様な企業間協力の促進
これらの取り組みにより、北九州市は九州全体のスタートアップシーンをリードする存在となる可能性を秘めています。Go All Outでは、北九州市のDX推進が、スタートアップシーンにどのような変革をもたらすのか、引き続き注目していきます。
この記事を書いた人
成重敏夫
北九州市を拠点に活動するライター・Web編集者。 企業取材、スポーツ取材など幅広く対応しています。
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