沖縄県が新たなイノベーションの波を起こそうとしています。2022年、県は10年間の基本計画に初めて「スタートアップ促進」を盛り込み、本格的な支援体制の構築に着手しました。
琉球大学内の「琉ラボ」の設立、61組織が参加する「おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」の発足、そしてアジアとの連携強化など、沖縄の特性を活かした取り組みが次々と展開されています。
2012年に胎動した沖縄のスタートアップの歴史から、「沖縄スタートアップ・エコシステム発展戦略」で掲げられた2028年に向けた目標まで、沖縄独自のスタートアップ・エコシステムの形成過程と今後の展望を探ります。
沖縄のスタートアップの歴史
沖縄のスタートアップの歴史は2012年にさかのぼります。当時、初めて沖縄でスタートアップイベント「Startup Weekend 沖縄」が開催されましたが、”スタートアップ”という言葉はまだ定着していませんでした。
2016年には沖縄市の中心地・コザに「STARTUP CAFE KOZA(スタートアップカフェ コザ)」が設立され、少しずつではありますが、沖縄県にスタートアップが生まれ始めました。
また、2016年には琉球銀行がスタートアップ支援プログラムを開始し、2018年には沖縄ITイノベーション戦略創出センター(通称:ISCO)が設立されるなど、沖縄県で本格的なスタートアップ支援が始まり、銀行など金融機関の積極的な支援が目立つようになりました。
このような沖縄のスタートアップ・エコシステムの発展の中で、新たなインパクトとなったのが琉ラボの誕生です。
琉ラボの誕生と役割
2023年7月、琉球大学内に「Startup Lab Ryudai(琉ラボ)」がオープンしました。琉ラボは、大学の研究の社会実装化や、起業家人材の育成、沖縄スタートアップ・エコシステムとの連携、オープンイノベーションを目指す拠点であり、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の支援を受けて設立されました。
琉ラボは、大学発のスタートアップ支援だけでなく、産学連携や地域社会との協働を重視しています。
また、創業期特化型プログラム「RYUDAI STARTUP BOOTCAMP」における創業支援や、琉大にゆかりのあるスタートアップの認定プログラム「RYULAB STARTUPS」を通じて、現在11社の多様な分野のスタートアップを支援するなど、沖縄のスタートアップ・エコシステムの一角を担っています。
沖縄のスタートアップ・エコシステムの全体像
2022年12月に「おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」が設立され、沖縄県全体としてエコシステム構築を推進しています。このコンソーシアムには沖縄県、内閣府沖縄総合事務局、金融機関、大学など、令和6年3月末時点で61の組織が参加しており、今年度中に70に届く見込みです。
コンソーシアムでは、定期的な情報交換会や勉強会を開催し、参加組織間の連携を深めています。また、スタートアップ支援のための共通プラットフォームの構築や成功事例の共有も行っています。
コンソーシアムは2023年11月に「おきなわスタートアップ・エコシステム発展戦略」を策定し、2028年までの具体的な目標を設定しました。主な目標には以下が含まれます。
- スタートアップの資金調達額を100億円以上に
- 企業評価額100億円以上のスタートアップ数を10社に
- スタートアップ数を200社に
これらの目標達成に向けて、産学官金が一体となって取り組みを進めています。
Ryukyufrogs:沖縄発の人材育成プログラム
2008年から実施されている人材育成プログラム「Ryukyufrogs」も、沖縄のスタートアップ・エコシステムの重要な要素となっています。このプログラムは、イノベーター人材の育成を目的としており、沖縄の草分け的なスタートアップ支援者である株式会社レキサスの比屋根隆さんが立ち上げました。(現在は株式会社FROGSが運営しています)
「Ryukyufrogs」の特徴は、その成果が全国に展開されていることです。現在では北海道、福島、茨城、宮崎などでも同様のプログラムが実施されており、沖縄発の人材育成モデルが日本全国に広がっています。
「frogs」の成果発表は、毎年12月に開催される「LeapDay」の中で行われます。
グローバル展開とアクセラレータープログラム
沖縄の地理的特性を活かし、アジアとの連携を強化する動きも見られます。2024年7月に開催されたイベント「KOZAROCKS 2024」で行われたビジネスピッチでは、海外から複数のスタートアップがエントリーし、メンタリングを通してビジネスのブラッシュアップにつなげました。これらの取り組みは、沖縄のスタートアップ・エコシステムの国際化を示しています。
また、沖縄科学技術大学院大学(OIST)において、シード段階のスタートアップ向けのグローバルアクセラレータープログラムも実施されており、全世界から応募を受け付けています。今年度は通常2社のところ、今期は4社を採択しました。
沖縄ならではの特徴と魅力
沖縄のスタートアップ・エコシステムは、地域の特性を活かした独自の魅力を持っており、観光産業の課題を解決するスタートアップも生まれています。ある学生起業家は、ホテルで廃棄されるベッドシーツをアップサイクルして新しい製品を作る事業を立ち上げました。
また、「沖縄で活動する人の“沖縄愛”の強さ」が、多くの人々を巻き込む原動力となっています。県外からの支援者も、沖縄の魅力に惹かれて積極的に関与しているケースが多いようです。
成長への課題と今後の展望
沖縄県におけるスタートアップ支援においては既存産業と新しいビジネスの融合も重要な課題です。特に人材育成が重要視されており、技術者と経営者のバランスの取れた育成が求められています。
また、長期的な視点の支援体制の構築という観点では、行政職員の継続的な関与やノウハウ蓄積も重要な課題として挙げられます。
まとめ
沖縄のスタートアップ・エコシステムは、県の新たな10年計画を基盤に、着実に発展を遂げています。おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアムの形成、琉ラボの設立、そして「おきなわスタートアップ・エコシステム発展戦略」の策定など、さまざまな取り組みが進められています。
地域の特性を活かしたスタートアップの誕生や、アジアとの連携強化など、沖縄ならではの地理的優位性も生かされています。一方で、スタートアップ支援の意識醸成や人材育成、既存産業との融合など、課題も明確になってきています。
この取り組みを通して感じられるのは、「変わらないものの上にしっかりと未来につながるものを作っていく」という強い意志です。これは、沖縄のこれまでの歴史を大切にしながらも、革新を恐れず前進しようとする姿勢を表しています。
今後、沖縄のスタートアップ・エコシステムがどのように発展し、日本のイノベーション地図をどう塗り替えていくのか、大いに注目されるところです。沖縄の文化や価値観を基盤としつつ、新しい技術やアイデアを取り入れた、沖縄独自の調和のとれた発展モデルが形成されることが期待されます。
琉ラボ https://ryulab.jp/
Startup Weekend 沖縄 https://www.facebook.com/swokinawa/
Ryukyufrogs https://www.ryukyu-frogs.com/
KOZAROCKS https://www.koza.rocks/
この記事を書いた人
成重敏夫
北九州市を拠点に活動するライター・Web編集者。 企業取材、スポーツ取材など幅広く対応しています。
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