2023年7月、沖縄県の新たなイノベーション拠点として琉球大学内に「琉ラボ」が誕生しました。大学の研究成果を社会に実装し、起業家精神を育む場として設立された琉ラボは、沖縄のスタートアップエコシステムと、県内大学とのHUB的な役割を担っています。
沖縄の伝統と革新のバランスを取りながら、どのようなイノベーションを生み出そうとしているのでしょうか。琉ラボの取り組みや支援するスタートアップの事例、そして今後の展望について、琉ラボを訪問し、話をうかがいました。
琉ラボの誕生
2023年7月、琉球大学内に、大学の研究領域の社会実装化やアントレプレナーシップの育成を目指す拠点として「琉ラボ」がオープンしました。「琉ラボ」は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)の本格型の採択を受けて設立されました。
琉ラボのビジョンとターゲット
琉ラボのターゲットは「イノベーションに楽しくチャレンジする人、そしてそれを支援する人です」と話すのは一般社団法人沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)の新垣智さん。ISCOは沖縄の情報通信産業の高度化・多様化を推進する組織で、琉ラボの運営にも携わっています。
琉ラボは、施設のコンセプトとして「ワクワクする未来の創造に楽しくチャレンジする人や、それを応援する人たちのための共創の場」であることを掲げています。琉ラボを舞台に、ここに集う人から湧き出る”アイデア”を育み、イノベーションにチャレンジする人を支援します。
「学内にこだわらず、学外に開かれた共創の場を目指しています」と新垣さんは語り、琉ラボが大学の枠を超えた開かれた場を目指していることが分かります。
琉ラボの取り組みと役割
琉ラボの活動は主に以下の4つの軸で展開されています。
・大学の研究領域の社会実装化
・アントレプレナーシップ・起業家人材の育成
・スタートアップエコシステム・地域社会との連携・共創
・世界に注目されるオープンイノベーションへの挑戦
琉ラボは、コワーキングスペースやイベントスペースとしての機能を持ち、学生や教員が自由に利用できる開かれた場となっています。これにより、学術研究とビジネスの垣根を越えた交流や、学生たちのリモートインターンシップの場としても活用されており、沖縄のスタートアップエコシステムと大学とのHUBとしての役割としての役割を果たしています。
RYULAB STARTUPSの取り組み
琉ラボは「RYULAB STARTUPS」という取り組みを行っており、現在11社のスタートアップを支援しています 。参加するための細かいレギュレーションは決めておらず、「我々が応援する、琉球大学にゆかりのあるスタートアップ」(新垣さん)の集まりです。
RYULAB STARTUPSには以下の11社が認定されています
● 株式会社aqua recolte
● 株式会社シンク・ネイチャー
● みらい共創マルシェ株式会社
● 株式会社琉球コーヒーエナジー
● 合同会社L&V OKINAWA
● 株式会社サステインハピネス
● 株式会社琉球科学教育研究会
● 株式会社AQSim
● 株式会社琉球GLOCALサービス
● 合同会社SHIMA Factory
● 株式会社サウスウッド
これらのスタートアップは、多岐にわたる分野で革新的な事業を展開しています。株式会社aqua recolteは陸上養殖に特化しており、高い評価を受けています。また、株式会社シンク・ネイチャーは海外のカンファレンスで評価され、1億円の出資を受けるなど、大きな成果を上げています。
この多様性は、琉ラボが沖縄の様々な産業分野でイノベーションを促進しようとしていることを示しています。
琉ラボの学内外連携とコミュニティ形成
琉ラボは琉球大学内だけでなく、沖縄科学技術大学院大学(OIST)や大阪工業大学とも連携しています。特に、OISTのスタートアップ関連プログラムの連携やイベントの共同開催を通して、琉球大学とOISTとの連携を深めています。
新垣さんは「琉ラボという場ができたことで、学生が相談しやすくなっていると感じています。学務課では対応できない、学内にちょっと収まりきらないような相談を受けることも少なくありません。面白い学生さんが面白い学生さんを連れてくる、といったことが日常的に起こっています」と語り、新しいコミュニティが可視化されつつあることを示唆しています。
琉ラボでは、「もあい」というイベントを毎月開催しています。毎月決まった金額を積み立てて、それを順番にメンバーが受け取るという仕組みの「模合」をもじって名づけたそうです。
「もあい」は、テーマを設定せずに参加者が自由に交流するイベントです。「『テーマを設定しなくても、研究者や学生がやりたいことや自分の思いを勝手にしゃべりますよ』と言われ半信半疑でしたが、本当に皆さんずっとしゃべっていました。1時間のイベントなのに、みんな1時間では帰らないんですよね」と新垣さんは笑います。起業相談の高校生や他大学の学生の参加もあり、多様な交流の場となっている「もあい」。参加者が5名程度のときもあったそうですが、現在では20人ほどが集まるようになったそうです。
「『もあい』をきっかけに琉ラボに遊びに来るようになった学生が、先日琉球大学の代表としてタイでのピッチイベントに参加しました。こういう結果が出るとやっている意味があるなと思いますね」と新垣さん。
今後の課題
今後の課題についてISCOの兼村光さんは「近ごろは良くも悪くも『成長痛』を感じています。いろんな人が来ている琉ラボでしっかりとキュレーションをやりながら成長させていくというのが課題であると考えています」と語ります。
まとめ:琉ラボが描く沖縄の未来
沖縄のスタートアップエコシステムは、まだ発展途上ですが、着実に進化を遂げています。地域の特性を活かしながら、大学と地域の連携を深め、新たなイノベーションの波を起こそうとしています。
琉ラボの取り組みは、沖縄の伝統を大切にしつつ、新しい技術やアイデアを取り入れるという姿勢が感じられます。これは、地域の特性を活かしながら、革新を恐れず前進するという強い意志を表しています。
この取り組みを通して感じられるのは、「変わらないものの上にしっかりと未来につながるものを作っていく」という強い意志です。これは、沖縄の伝統を大切にしながらも、革新を恐れず前進しようとする姿勢を表しています。沖縄の文化や価値観を基盤としつつ、新しい技術やアイデアを取り入れ、調和のとれた発展を目指す姿勢が見て取れます。
沖縄のスタートアップエコシステムは、過去からの変遷を踏まえ現在の形になっています。 今後、このエコシステムがどのように発展し、沖縄の経済や社会にどのような変革をもたらすのか、長期的な視点で見守っていく必要があります。沖縄の伝統と革新が融合した独自のイノベーション文化が、どのような未来を切り開いていくのか、大いに注目されるところです。
この記事を書いた人
成重敏夫
北九州市を拠点に活動するライター・Web編集者。 企業取材、スポーツ取材など幅広く対応しています。
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