沖縄市コザで開催されるスタートアップイベント「KOZAROCKS」が、2024年7月に4回目の開催を迎えました。単なるビジネスカンファレンスの枠を超え、地域の文化と国際的なビジョンを融合させたこのユニークなイベントの背後では、豊里健一郎氏、豊里竜次氏の兄弟がさまざまな仕掛けを行っています。
彼らが描く沖縄の未来とは、そして「万国津梁」の理念とは――。KOZAROCKSを通じて、沖縄とアジアの架け橋となる新たな可能性を切り開こうとする彼らの挑戦に迫ります。
理念の結実:KOZAROCKSの誕生と成長
北海道、九州、海外などから多様な参加者を集め、2024年7月6日に行われたスタートアップイベント「KOZAROCKS 2024」終了後、兄の健一郎氏にお話をうかがいました。
「僕たちはこの街でずっと”スタートアップ支援”をやってきましたが、今回、4回目の開催にしてようやく『沖縄が“日本とアジアのハブ”になる』というメッセージを伝えることができました」と振り返りました。
「KOZAROCKS」は2022年7月にスタート。
「当初は『Lagoon』という施設を中心にスタートアップ支援を行っていましたが、県外での認知度を上げるために、商店街全体を活用して“世界にイノベーションを起こす挑戦者を生み出す商店街”を目指しました。そこで、商店街を『コザスタートアップ商店街』にリブランディングし、オープニングイベントの一環として『KOZAROCKS』を始めました」と、弟の竜次氏がKOZAROCKSの発展過程を説明します。
竜次氏が本格的に関わったのは第2回からといいます。「地域のクリエイターを活用してエンタメのコンテンツができないかというオファーを受け、KOZAROCKSの企画やクリエイティブに本格的に携わるようになりました」と振り返ります。
「歴史の浅いイベントに、地域の人たちに関わってもらうのは難しかったので、『KOZAROCKSの連動企画として地域イベントを作りませんか』というアプローチで、地域の人と一緒にイベントを作りました」と竜次氏。
KOZAROCKSは単なるスタートアップイベントから、地域全体を巻き込む大きな動きへと進化していきました。
架け橋の夢:「万国津梁」というビジョン
KOZAROCKSの核心にあるのは、「万国津梁」という理念です。これは、琉球王国が南の島に位置し、貿易を通じて他の国々とつながり、繁栄したことを意味しており、琉球王国がアジアの国々と活発に貿易をしていた歴史を表している言葉です。
健一郎氏はこの言葉を「生きる上での理念」と述べた上で、「日本とアジアの架け橋となれるよう、ファンドも準備中です」と今後の計画を明かしました。
文化の融合:コザの街とKOZAROCKSの共鳴
KOZAROCKSの特徴は、コザという街の独特な文化背景との融合にあります。
健一郎氏はこう説明します。「コザはアメリカと沖縄文化がミックスされている街なので、いろんなカオス感、例えば台湾の夜市の雰囲気を再現することで、『万国津梁』という僕らのテーマを表現することが可能です」。
この「カオス感」を体現したのが、今回のKOZAROCKSで、当時開催した「パルミラ夜市」です。
竜次氏は「『パルミラ通り』を基点に、コザへの観光客を増やそうと、パルミラ通り会の会長さんと相談しながら立ち上げたイベントです。飲食店さんの協力もあり、とても好評でした」と話してくれました。
「夜市に関しては、役所の方が今後の実施に前のめりになりました。『市としては、このイベントを継続しながら地域を盛り上げて、台湾との交流を深めていきたいと考えている』という話をいただき、とてもありがたいと思いました」
このパルミラ夜市の成功は、KOZAROCKSが目指す『万国津梁』の理念を具体化し、地域の人々にも理解されやすい形で示したといえるでしょう。
このカオス感は、パルミラ夜市だけでなく、KOZAROCKSのさまざまなイベントでも表現されています。KOZAROCKS第2回で実現した「アーケードパーティー」もそのひとつでしょう。このイベントには、地元出身のラッパー、Rude-αが出演しました。
竜次氏は「Rude-αは元々、コザでキッズダンサーの活動をしており、その後高校生RAP選手権で準優勝してメジャーデビューを果たしました。彼がステージで歌っているとき、地元のキッズダンサーたちがみんなステージに上がったんです。その光景を見て、『この子たちも10年後にはメジャーに行くんじゃないか』と感じました。コザはDA PUMPのISSAさんやオレンジレンジのように、先輩たちの姿を追いかけてメジャー挑戦するというループがずっと回っているんです」と話します。
このエピソードは、KOZAROCKSが目指す「地域の才能を育て、世界へ送り出す」という理念を鮮やかに体現しています。コザの文化的な特徴を活かしながら、地域の才能を育成し、より大きな舞台へと送り出す――これこそがKOZAROCKSの目指す「万国津梁」の現代的な解釈といえるかもしれません。
近くて遠い隣人:沖縄と台湾のつながり
KOZAROCKSが注目するのは、沖縄と台湾の密接な関係です。健一郎氏は、その地理的な近さを強調します。「沖縄と台湾は飛行機で約1時間ちょっとの距離です。台湾の人にとっては最初に訪れる日本の地であり、私たちにとっては、福岡よりも近い都市なんです」
この近さを活かし、健一郎氏は頻繁に台湾を訪れ、具体的な連携計画を進めています。
竜次氏も台湾との関係の重要性を認識しています。「この地理的な近さに加え、台湾には親日家が多いんです。僕たちが文化の架け橋になる役割を果たさなければと考えています」と語ります。
この地理的な近さが、沖縄と台湾の文化交流をさらに深める可能性を秘めています。
多様性の祭典:KOZAROCKSの参加者たち
KOZAROCKSの特徴は、その多様性と地域との深い関わりにあります。
「沖縄や九州から多くのスタートアップが参加していますが、特に目立つのは北海道からの参加です。海外からお越しいただいたスタートアップにはピッチに登壇していただきました」と参加者の多様性を説明します。
竜次氏は地域からの反応の変化を語ります。「今回『万国津梁』というテーマを掲げたことで、地域の反応がこれまでとは変わってきました。KOZAROCKSへの関わり方について多くの問い合わせがあり、地元のスモールビジネスと外部のビジネスとの接点を作る企画案も出てきています」
この反応は、KOZAROCKSが地域のビジネスにとって貴重な機会を提供できる存在となっていることを示しています。
才能の育成:クリエイター支援とコミュニティ形成
竜次氏は4年ほど前から、地域のクリエイター支援に力を注いでいます。
「クリエイターが活躍できる場や機会をたくさん創り、挑戦する人たちを増やし、彼らをサポートしていきたいという思いを持っています」と語ります。
「14万人しかいない街ですが、皆があこがれるようなステージは作ってあげられるので、地元のクリエイターが、このイベントで勝負したいと”憧れる存在”になるようなイベントを実施したいですね」と竜次さんは意欲を見せます。
未来への展望:KOZAROCKSが描く100年先の沖縄
最後に、豊里兄弟がKOZAROCKSを通じて描く沖縄の未来像について聞きました。
健一郎氏は100年後の沖縄についてこう語ります。
「『万国津梁』を掲げ、アジアとの懸け橋、そして平和の架け橋になりたいと思います。外から来た人から、100年後にも『コザが好き』『沖縄が好き』といってもらえるように、KOZAROCKSを開催し続けたいと思います」
KOZAROCKSは、沖縄の地域性と国際性を融合させ、新しい可能性を切り開こうとしています。単にビジネスの成功を目指すだけでなく、文化の交流、相互理解の促進、そして平和の架け橋となることを目指す壮大な挑戦。豊里兄弟の情熱と行動力が、この挑戦を現実のものとし、沖縄の未来を切り拓いていくことでしょう。
この記事を書いた人
成重敏夫
北九州市を拠点に活動するライター・Web編集者。 企業取材、スポーツ取材など幅広く対応しています。
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