2025.07.18 (最終更新日:2025.07.18)
「小さいフィールドだからこそ大きいネットワーク」地銀系古参VC・佐銀キャピタル&コンサルティングが築く地域スタートアップエコシステム

成重敏夫
地方におけるスタートアップ支援の在り方が問われる中、佐賀銀行系のベンチャーキャピタル「株式会社佐銀キャピタル&コンサルティング」は独自のアプローチで注目を集めています。1991年設立と地銀系VCの古参として、地域発の起業家への投資に積極的に取り組んでいます。さらに長年継続する起業家教育では多くの人材を育成し、投資と教育の両輪で地域エコシステムを構築してきました。
今回は、佐銀キャピタル&コンサルティングの岡野功一取締役、同社の坂本大知統括マネージャー、佐賀銀行地域支援部横尾敏史調査役(鳳雛塾理事兼事務局長兼務)にお話をうかがい、地方スタートアップエコシステムの可能性と課題、そして「小さいフィールドだからこそ大きいネットワーク」という佐賀ならではの強みについて詳しく話を聞きました。

地銀系VCの先駆けとして30年以上の投資実績を積み重ね
――佐銀キャピタル&コンサルティングの設立経緯を教えてください。
弊社の設立は1991年3月7日で、創立して30年を超え地銀系VCでの中では古参に部類です。直接的な設立背景は記録に残っていないのですが、他行に先駆けて投資業務に取り組んでいたことは間違いないと思います。当時の佐賀銀行頭取の田中稔に、地元佐賀から全国で活躍できる上場企業を生みたいという強い思いがあったのではないでしょうか。
――現在の主な事業内容について教えてください。
本業は投資業務ですので、他のVCさん同様に投資案件のソーシングから案件組成まで各担当者が行っています。佐賀県内においては、起業家にとっての身近な相談相手としての役割を果せるよう、日々努めています。
現在運用しているのは、総額15億円の「佐銀ベンチャーキャピタル投資事業有限責任組合第五号」(以降「5号ファンド」)です。それと別に、昨年「佐銀スタートアップ応援投資事業有限責任組合第1号」(以降「応援ファンド」)をファンド総額1億円で設立しました。
――どのような企業に出資されていますか?
公序良俗に反しない限り、そこまで投資領域を限定していません。エンタメ要素があまりにも強かったり、射幸性を大きく煽る事業については取り上げるハードルは高く難しいものと考えます。最近は、バーティカルSaaSや大学等の研究機関発のバイオ領域やディープテック領域に注目しています。。
5号ファンドと応援ファンドで異なる投資判断基準を設定

――出資において、重視されているポイントや判断基準は何ですか?
「5号ファンド」と「応援ファンド」はそれぞれ目線が違いますので、分けてお話しさせていただきます。
5号ファンドは、提供するサービスやプロダクトが佐賀銀行やそのお取引先、地域にとって有用なものであるかが判断基準となります。又、母体である佐賀銀行の営業基盤である佐賀・福岡・長崎に本店や支店や拠点を設けていただいている企業さんであれば大歓迎です。もちろん、イグジットでのリターンが得られることは大前提ですが。
応援ファンドでは、原則として地元の大学も含めて地域発の起業家への投資を実施しています。IPOやM&A等のイグジットにこだわらず、地域を代表するような企業、地域経済を牽引するような企業へ成長することに期待して投資検討しています。
――他のベンチャーキャピタルと比べ、佐銀キャピタル&コンサルティングさんならではの特徴は何でしょうか?
地域金融機関(地方銀行)を母体に持つVCは、どこも地元への波及効果を期待しているかと思いますが、弊社は特にその傾向が強いと思います。佐賀という地で人口減少や経済規模の縮小といった現実に直面していることが理由です。
佐賀県は、人件費や賃料等のコスト負担が軽いこと、未活用の遊休資産が数多くあり活用手段が残っていることなど、一部のスタートアップにとって魅力ある環境であると思っています。そういった強みを活かしてくれるスタートアップは大歓迎で、お持ちの知見・経験・ノウハウ等を地域に落とし込んでいただきたいと強く願っています。
地元ディスカウントストア400店舗展開にみる地方から全国への成功パターン
――これまでに出資された企業について、成長の話などがあれば聞かせてください。
一番の成功モデルはディスカウントストアのD社です。
地元ディスカウントストアのD社は、もともとカメラ店を経営されていましたが、業界の将来性に不安を感じた時期に渡米したアメリカで出会ったのが、低価格・大量販売を実現するウォルマートのビジネスモデルでした。
ディスカウントストアという業態を日本に持ち込み、当初は大店法の適用を受けない500平米以下の敷地に出店するという形態で、現在では西日本を中心に400店舗以上を展開するまでに成長しています。当社は、創業期のD社への出資を行い地方発の企業として、多店舗展開に成功したひとつの代表的な事例となりました。
――出資後の支援として、具体的にどのような形で企業の成長を後押しされていますか?
ファンド規模を踏まえるとフォロー投資が大半ですが、他のVCさん同様、ビジネスマッチングによる顧客紹介・販路拡大や新たな投資家の紹介等のファイナンス支援を母体行と連携して実施しています。
また、銀行グループ各社やそのお取引先企業、外部専門家やRYO-FU-BASE(公益財団法人佐賀県産業振興機構が設立したDXとスタートアップをテーマに企業や起業家の成長を支援する組織)といったネットワークを活かして企業成長を支援しています。特に、地域発のスタートアップに対しては、よりきめ細やかなフォローを心掛けています。
鳳雛塾による人材育成と投資の両輪でエコシステム構築

――起業家教育についても長年取り組まれているとお聞きしました。
人材育成や経営力のアップを目標に立ち上げた「鳳雛塾(ほうすうじゅく)」があります。ベンチャーやスタートアップの皆さんが経営力を高めるためのマネジメントやマーケティングの研修を多くの方に受講していただいています。
元々は産業界が大学に寄付して、国立大学でおそらく初めてのベンチャー講座を佐賀大学に作ったのが始まりです。ただ、大学内のコンテンツであったため、寄付をした人や社会人は受講できず、それなら外に塾を作って学びましょうというのが始まりでした。
当初は社会人や大学生の起業家精神を身につけることを目標にしたビジネススクールを運営していましたが、今では小学生から大学生・社会人に至るまでの一貫した起業家教育を実施しています。学校教育まで領域が広がったことで、銀行だけでできるものではなくなりましたので、大学や県市町と連携して行っています。
――九州・佐賀という地域の特性についてどうお考えですか?
オンラインツールやクラウドサービスの進歩により、大都会でスタートアップすることが必ずしも正解ではないと感じています。地方都市は、物価も安くあらゆるコスト負担が軽いこと、競合が少なく、メディアに取り上げてもらえる機会、挑戦する機会を得やすいといったところに可能性を感じます。
佐賀の産学官連携のネットワークは相当強いです。皆さんとは「顔が見える関係」で、いろいろお話し合いができるので、スタートアップの企業が出ると皆さんで支えていくという環境があります。
これは我々がいつも使っている表現なのですが、小さいフィールドだからこそ大きいネットワークができています。佐賀県は人口規模もさほど大きくないので、どこか1ヶ所に相談するとすぐに横展開し連携できます。
一方で、資金調達においては難しさを感じます。調達手法が多様化したとはいえ、依然として、地方では都会と違いエクイティ(資本制資金)での調達環境が整っていないのが実情であり、弊社が「はじめの一歩」を踏み出す挑戦を資金面で後押しする役割を果たしたいという強い思いで活動しています。
明治維新の先進性を受け継ぎ地域から世界へ挑戦する精神を継承

――今後、佐銀キャピタル&コンサルティングとして地域経済やスタートアップエコシステムに対して果たしていきたい役割について教えてください。
7年前の平成30年に、明治維新150周年を迎えました。明治維新の頃、佐賀藩は既に世界を見ており、西洋の多様な最先端技術を取り込み自身で産業を興し、日本のテクノロジーの頂点を極め、藩の財政を再建しました。当時の明治維新を成し遂げたアントレプレナーシップを、これから佐賀県の子供たちにも伝えていきたいと思います。
地方銀行を母体に持つVCとして、挑戦したい起業家の良き理解者・戦略的パートナーとなって企業として成長することへの支援が、我々の役割であると認識しております。資金面だけでなく、グループ企業間との連携やお取引先とのアライアンス構築などの支援を通して、地域から羽ばたく企業を創出することが地域経済を元気にすることに繋がると信じています。
佐賀県には、スタートアップに必要なヒト・モノ・カネといったリソースが全体的に不足していますが、各地に点在しているリソースの集積や外部機関の活用等を通してエコシステムを形成し、地域全体で支援していく基盤を作る一助になれればと考えています。
投資と教育の両輪で地域のアントレプレナーシップを育てていく。それが私たちの役割だと考えています。
この記事を書いた人

成重敏夫
北九州市を拠点に活動するライター・Web編集者。 企業取材、スポーツ取材など幅広く対応しています。
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