はじめに
スタートアップの成功には、どんな要素が必要なのでしょうか。ベンチャーキャピタリストの竹山将志氏は、数々の企業の成長を支えてきた経験から、独自の投資哲学を築き上げました。今回は、竹山氏の考え方や投資判断のポイントについて伺いました。
【竹山将志氏の略歴】
竹山将志氏は、ソフトバンクグループに新卒入社し、エンジニアマネージャーとして社内外の大規模システム開発に従事した後、事業開発マネージャーとして新規事業の立ち上げにも携わった経験を持つ。
その後、政府系ファンドのINCJ(旧産業革新機構)に移り、主にIT・IoT・ディープテック領域でのベンチャー投資に従事。さらに上場株運用会社のレオスグループにて、ベンチャーキャピタルを新規で立ち上げ、シード期のスタートアップに対するインキュベーションや投資を手がけている。
また、竹山氏は学生や社会人向けのアクセラレーションプログラムでメンターを複数務めるなど、起業家育成にも力を入れている。スタートアップに対する資金調達や事業開発の支援実績が豊富で、日本のベンチャーエコシステムの発展に貢献している。特に、地方における新たな産業創出とスタートアップ支援に尽力している。
2024年8月に、福岡県北九州市にて自身のベンチャーキャピタル「ナインキャピタル」を設立。地方都市における起業家支援とイノベーション創出に注力している。
エンジニアからベンチャーキャピタリストへ
――竹山さんのキャリアの始まりとベンチャーキャピタルになったきっかけを教えてください。
竹山氏:私はソフトバンクのエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。通信パケットのネットワークシステムやフィンテックのシステムを構築し、エンジニアとして社内賞をいくつか受賞しました。しかし、社会課題を解決する事業を立ち上げたいという思いが強くなり、社内でアグリテックの事業を始めました。祖父母が80代になっても農業に従事していたことから、この領域の課題解決に取り組もうと決意したのです。幼少期から農業に慣れ親しんでいたとはいえ、ビジネスをする上では知見の乏しい領域だったため、アグリテックのスタートアップへ投資をして資本業務提携を行うことで事業を推進してきました。
事業が進むにつれ、スタートアップの起業家の熱量に惹かれ、ベンチャーキャピタルになることを決意しました。自分で事業を立ち上げ、推進するのは並行して1、2個が限界ですが、ベンチャーキャピタルとしてであれば、もっと多くの事業に取り組めると感じたからです。
ベンチャーキャピタルとしての経験
――ベンチャーキャピタルのキャリアでどのような経験を積みましたか?
竹山氏:創業からシード期のスタートアップに投資をする仕事をしていました。伝統的なものづくりの会社や大企業の生産性向上を目指し、スタートアップとのコラボレーションにより、社会課題を解決し、双方の価値を上げる取り組みをしていました。
投資判断で重視するポイント
――企業を評価する際に重視するポイントは何ですか?
竹山氏:起業家の熱量、諦めない姿勢、事業とのフィット感を重視しています。また、謙虚さ、執念、地頭の良さも大切です。アイデアだけでなく、実行力も評価しますね。
一方で、僕が大事にしているのは「絶対否定しない」ということ。ベンチャーキャピタルにこう言われたからやめましたという人が結構いるんですよ。特に創業からシードと言われる時期は、確かにさまざまな問題はあるんですが、決して否定せずに、僕はこう思うというスタンスでお伝えしています。
起業家の資質
――起業家のキャラクターと事業の相性のようなものはありますか?
竹山氏:同じアイデアでも、起業家の特性によって成功の可能性が大きく異なります。起業家が持つキャラクターと事業の掛け合わせが合わないと、事業の成功は難しいです。
――熱量はどのように測るのでしょうか?
竹山氏:話し方や表情、目つき、実際のアクションなどで見極めます。
ピッチのポイント
――ピッチで注目するポイントは何ですか?
竹山氏:共感とインパクトですね。共感が生まれないと、人間は検討したいと思わないんです。共感できる事業・起業家だから検討してみたいということが、投資をするかどうかの始まりだと思うんですよ。起業家自身も、チームのエンジニアや事業開発の仲間に対してピッチをすると思うんですが、共感が生まれないと仲間は集まらないと思うんです。
インパクトも重要です。社会的なインパクトと、経済的なインパクトが大事です。例えば、ある程度経済的に積み上げができて、IPOや大型のM&Aを狙えるような会社になることができるか、といったところに注目します。
――ピッチで伝えるべき情報について、重要な点はありますか?
竹山氏:ネット検索でわかるような二次情報ではなく、起業家自身の経験から得られた一次情報を伝えることが重要です。その事業への深い理解や独自の視点が、プロダクトの優位性につながるからです。
投資プロセスとサポート体制
――投資プロセスについて教えてください。
竹山氏:ピッチ大会や紹介を通じて起業家と接点を持ち、詳細な事業計画やチームの評価を行います。起業家の方からDMが来ることもあれば、知人の紹介で来るときもあります。5分間のピッチで聞くこと、30分、1時間と時間をとって聞くこともあります。そこで、事業や起業家が面白いと感じたときに、仲間にシェアをします。
以前のファンドでは、ファーストスクリーニングでは技術面、チーム構成、ファイナンスの条件を評価し、セカンドスクリーニングではさらに詳細なデューデリジェンスを行っており、最終的な投資判断はパートナー間の多数決で決定していました。
――投資後のサポート体制はどのようなものですか?
竹山氏:以前のファンドにおいては、できる支援は何でもしていました。出資で求めることは、お金を返してもらうことではなく、株の価値を上げて、最終的な収益を確定させることです。
会社の価値が上がる=株の価値が上がることなので、出資した後にできる支援を行って会社の価値を上げることに注力していました。
これまでのチームは金融系出身者やコーポレート関連のバックグラウンドを持っている方が多かったこともあり、ガバナンス構築やコーポレート関連の支援に寄っていた部分もあったように思います。
今後は、金融系出身者だけではなく、先に起業してIPOやM&Aをしている連続起業家たちと一緒にファンドをやりたいんです。起業家に伴走して、コーポレートも、エンジニアリングも、事業開発も支援するような感じで、起業家にとって必要な支援はなるべく全部やるという「インキュベーション投資」のような形をイメージしています。
――投資先企業への具体的な支援内容について教えてください。
竹山氏:経営戦略やマーケティング、人材採用、資金調達など、多岐にわたる分野でサポートします。企業ごとにカスタマイズした支援を行い、起業家が抱える課題を解決する手助けをしています。
スタートアップ成功の秘訣
――ずばり、スタートアップが成功するための秘訣は何ですか?
竹山氏:唯一の秘訣は「成功するまで諦めないこと」です。起業の過程では多くの困難が待ち受けていますが、それを乗り越えることで初めて成功のチャンスが訪れます。主に資金的なことと、メンタル的なことで諦める起業家が多いのですが、具体的な対策を講じることで乗り越えられると信じています。
資金的な話は、諦めなければ絶対何とかなるんです。例えば、受託開発で収益を上げながら、少しずつ自社プロダクトに注力していくなどの方法を採ればいいと思っています。メンタル面でのサポートも重要です。創業者は孤独に感じることが多いので、共感し支える存在が必要です。
そういう状況に陥らないためには、熱量が一番重要なんです。熱量が諦めない原動力になり、執念に繋がっていくと思うからこそ、熱量を重視しているんです。だから諦めなければ成功するんです。いつか必ず成功します。
おわりに
竹山氏へのインタビューを通じて、スタートアップ成功の鍵は、起業家の熱量と諦めない姿勢にあることがわかりました。道のりは平坦ではありませんが、粘り強く挑戦を続ければ、必ずチャンスはやってくる。ベンチャーキャピタリストとして、竹山氏は起業家とともにその挑戦を支え続けています。
この記事を書いた人
成重敏夫
北九州市を拠点に活動するライター・Web編集者。 企業取材、スポーツ取材など幅広く対応しています。
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