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インタビュー

2024.12.19 (最終更新日:2024.12.18)

柔らかい指が変える産業の未来 ―北九州発、KIQ ROBOTICSのロボット革命―

成重敏夫

北九州市小倉北区に本社を置くKIQ ROBOTICS株式会社は、2019年に設立された注目のロボットスタートアップです。産業用ロボットの指先となるロボットハンドを開発・提供する同社は、3Dプリンターを駆使した革新的な技術で、製造現場の自動化に新たな可能性を拓いています。北九州工業高等専門学校で准教授を務めた経歴を持つ代表取締役の滝本隆氏に、同社の独自技術と未来へのビジョンについて話を伺いました。

革新的な技術開発とその背景

――まず、御社の事業内容について教えてください。

滝本さん:弊社は、産業用ロボットの指先を提供しています。最大の特徴は、3Dプリンターで作成した「ラティス構造」と呼ばれるメッシュ構造を持つ指です。この構造により、指の柔らかさを調整することができ、さまざまな対象物を柔軟に掴むことが可能になります。

人の指も柔らかいからこそ、いろいろなものを掴むことができますよね。同じように、私たちの指を使えばロボットでも、複数の対象物を一種類のハンドで持つことができるのです。

ロボットを使う時代になってくると、扱う部品点数が非常に多くなります。製品の形状すらわからない場合も増えてきている中で、指先の柔らかさを活用することで、自動化のシーンで役立てていただけるようなツールとして利用していただいています。

――なぜこのような技術開発に取り組まれたのでしょうか?

滝本さん:私ともう一人の共同創業者は、磁性流体という特殊な液体の研究をしていました。この液体は磁石に近づけると固まる性質があり、それを使って「ドラえもんの手」のように、何でも掴めるハンドを作れないかと考えていました。

ただ、実用化には難しい面もあったため、3Dプリンターを使ったメタマテリアル技術に着目しました。これなら柔らかさを調整できる指を作れるのではないかと考えたのです。

――御社の技術の特徴は何でしょうか?

滝本さん:特徴は主に3つあります。

まず汎用性です。従来は対象物ごとに専用の爪を設計する必要がありましたが、私たちの指を使えば一つの指で複数の形状に対応できます。これにより、システムの複雑化やコスト増大を避けることが可能になります。

次に、3Dプリンターでの製造により、お客様のニーズに合わせた形状の指を迅速に提供することができます。ゴムで同じような形状を作ろうとすると非常に難しいのです。

そして、コスト面での優位性があります。一見、ゴムやスポンジを使う方が安く済むように思えるかもしれませんが、システム全体で見ると、私たちの指を使う方がコストメリットが出てきます。

実用化の進展と活用事例

――貴社の「指」は、具体的にはどのような場所で使われているのでしょうか?

滝本さん:主に製造業、特に自動車メーカーで採用されることが多いですね。

自動車メーカーでは、通い箱と呼ばれるプラスチック製の箱を掴むのに使用されています。これらの箱は一見同じように見えても、実は各社で微妙に形状が異なります。従来は箱ごとに専用の爪を用意する必要がありましたが、私たちの柔軟な指を使うことで、さまざまな形状の箱に対応できるようになりました。

また、リサイクル事業者に、廃棄物を選別する工程で指先を使ってもらう事例もあります。

――新しい分野での活用についてはいかがでしょうか?

滝本さん:現在、東京大学で私たちの指を使った自動化プロジェクトが進行中です。具体的には、試験管に薬剤を投入して攪拌し、反応を観察するという、従来は人が手作業で行っていた作業の自動化です。

この作業は5時間おきに行う必要があり、休日も含めて24時間体制で行わなければならず、研究者や学生にとって大きな負担になっていました。このような作業を自動化することで、研究者が本来の研究活動に集中できるようになります。

また、理化学研究所でも同様のプロジェクトを検討しています。

――製品開発や製造プロセスについて教えていただけますか?

滝本さん:製品を、ただ単に3Dプリンターで出力すれば良いというわけではないので、設計の段階で、どの程度の柔らかさが必要か、どのような形状が最適かを綿密に検討しています。

事業拡大への取り組みと課題

――事業の現状と課題についてお聞かせください。

滝本さん:私たちの製品は半年から1年で交換していただくものなので、最近はリピート発注も増えてきました。

課題としては、やはり認知度の低さですね。ロボットの指の設計は通常SIer(システムインテグレーター)が行っているため、ユーザー側はあまり気にしていません。そういう事情もあり、私たちの製品の存在を知ってもらうのが難しいのです。

以前は「何でも掴めます」と売り出していましたが、実際にはユーザーは特定の対象物を掴みたいだけなので、このギャップに苦労しました。

その後、指先を起点にロボットパッケージを展開し、「ビジョン」(画像認識による物体検出)や、専門知識がなくても使える「ティーチングレス」の仕組みを提供してきました。

そこで実感したのは、特に中小企業においてはロボット導入以前の“自動化”が必要な企業が多いということです。ですので、まずはDXを進めていただき、その上でロボット導入の効果を理解してもらう必要があると考えています。

――製品を納入する工場リサーチはどのように行っていますか?

滝本さん:取引のある商社経由でアプローチし、工場を見学させていただいています。工場にどれだけ入れるかが重要なポイントなので、一つ一つ丁寧に進めていく必要があります。

――資金調達の方法についてお聞かせください。

滝本さん:QBキャピタルさんとは1年ほど前から関係を築いており、事業化に向けての相談を定期的に行っています。こうした密な連携が効果的だったと実感しています。

次のラウンドに向け、製造ノウハウを自分たちで確立し、原価低減を目指しています。自動設計の未来が見えてきており、そうした技術に合わせて指が届くような世界観を作る活動ができれば面白いと考えています。

――社内の役割分担はどうなっていますか?

滝本さん:最近新しく入ったメンバーがマネージャー役を務めています。また、技術営業や管理業務を担当する人を加えました。それ以外はエンジニアが多く、私は主に技術開発に携わっています。最近はCFOのような役割を持つ人が必要だと感じ始めています。

次世代技術がもたらす未来像

――北九州のスタートアップエコシステムについてどのようにお考えですか?

滝本さん:北九州のスタートアップシーンは、まだ成長段階にあると感じています。スタートアップ同士の交流は増えていますが、既存の企業との連携がまだ十分ではありません。スタートアップと一般企業の間には心理的な壁があるように感じます。お互いに距離を感じているようで、その壁を取り払うことが重要だと考えています。

また、コミュニティの持続可能性も課題です。キーパーソンが不在になると活動が縮小してしまうことがあります。継続的に活動できる仕組み作りが必要ですね。北九州市がスタートアップ支援に力を入れていることは心強いことです。

――人間とロボットの関係についてはどのようにお考えですか?

滝本さん:私は、ロボットは人間の仕事を奪うものではなく、むしろ人間がより付加価値の高い仕事に集中できるようにするものだと考えています。例えば、単純な搬送作業はロボットに任せて、人間はより創造的な仕事に従事する。そういった働き方の変革を促進したいと思っています。

――最後に、滝本さん自身の夢をお聞かせください。

滝本さん:私の夢は「ロボットの街北九州」の実現です。ロボットは常に人々の夢を形にする存在でした。かつては自動洗濯機が、今では掃除ロボットのルンバが、人々の暮らしを変える夢の技術でした。

北九州を、人々が自由に夢を描き、それを形にできる街にしたい。そこには、技術者だけでなく、新しいアイデアを持つ多様な人々が集まってくる。そんなイノベーションの拠点として、北九州を発展させていきたいのです。

【取材後記】

取材を終えて、滝本さんが語った「人の指のように柔軟に物を掴む」という単純明快なアイデアが、製造現場の自動化に確かな変革をもたらしつつあることを実感しました。このアイデアは、自動車産業での導入実績を重ね、さらに研究機関での活用も始まっています。「ロボットの街・北九州」という滝本さんのビジョンは、着実に現実味を帯びてきているのです。

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この記事を書いた人

成重敏夫

北九州市を拠点に活動するライター・Web編集者。 企業取材、スポーツ取材など幅広く対応しています。

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